2010年2月8日月曜日

尹東柱の詩 2篇 (金時鐘訳) 


自画像


麓の隅(すみ)を廻り ひそまった田のかたわらの 井戸をひとり訪ねては
そおっと覗いて見ます。

井戸の中には 月が明るく 雲が流れ 空が広がり
青い風が吹いて 秋があります。

そしてひとりの 男がいます。
どうしてかその男が憎くなり 帰っていきます。

帰りながら考えると その男が哀れになります。
引き返して覗くと その男はそのままいます。

またもやその男が憎くなり 帰っていきます。
道すがら考えると その男がいとおしくなります。

井戸の中には 月が明るく 雲が流れ 空が広がり
青い風が吹いて 秋があって
追憶のように 男がいます。


(1939.9)








海辺の陽射し照りつく岩場に
湿った肝をひろげて干そう、

コーカサスの山中より逃げてきた兎のように
ぐるりをくるくる廻って肝を守ろう、

ぼくが長く飼っていた痩せた鷲よ!
きて食い漁れ、思いあぐむな

お前は太り
ぼくは痩せねばならない、だが

亀よ!
またとは竜宮の誘惑に落ちたりはすまい。

プロメテウス 哀れなプロメテウス
火を盗んだ咎で挽き臼を吊るされ
果てしなく沈殿する プロメテウス、


(1941.11.29)




※いずれも金時鐘訳『尹東柱詩集 空と風と星と詩』(2004,もず工房)より。

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