2010年8月3日火曜日

室生犀星の詩二篇(詩集『昨日いらつしつて下さい』1952年より)

「夜までは」

男といふものは
みなさん ぶらんこ・ぶらんこお下げになり
知らん顔して歩いていらっしゃる
えらいひとも
えらくないひとも
やはりお下げになっていらっしゃる
恥ずかしくも何ともないらしい
お天気は好いしあたたかい日に
ぶらんこさんは包まれて
包まれたうへにまた叮嚀に包まれて
平気で何食はぬ顔で歩いていらっしゃる
お尋ねしますがあなた様は今日は
何処で誰方にお逢いになりました
街にはるかぜ ぶらんこさんは
上機嫌でうたっていらっしゃる
 
 
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「みなあれから」
 
女といふものをつくづく眺め入って
あんなところに
あんなもののあることにいまさら驚く
あれを見てゐると気が立ち
女のうつくしさがおほって来る
あれはきっと
きみやあなたや
あの男もべつのみなさんも
あれの前にはものがいへなくなる
いはうとしても言葉もない
あれはただやさしく君臨するだけで
威張ったこともなく 柔かく
絶えるやうなものを与へる
絶えるやうな声音をあげる


 
 
 
 
※テキストは『室生犀星全詩集』(1964,筑摩書房)より。
 
 
 
室生犀星(1889~1962)といえば、二十歳のころ寒い部屋でインスタントコーヒーを啜りながら読み親しんだ、懐かしい思い出を呼び覚ましてくれる詩人です。それははじめて詩というものに深く魅了された経験でもありました。
二十代半ばのころはまだインターネットもなく、京都の某古書店でみつけた『全詩集』には15000円の値がつけられていましたが、当時はまったく手がでませんでした。
今では3000~4000円くらいに古書価は落ち着いているようですが、一昨年、偶然立ち寄った奈良の某古書店で格安で入手しました。
初期の『愛の詩集』『第二愛の詩集』もいいのですが、やはり晩年の詩集『昨日いらつしつて下さい』の思想的な深みは格別ですね。
ちなみに筑摩版『全詩集』には戦時中の戦争讃美詩は収録されていません。戦後、時勢に迎合したことを心から恥じたことがその理由だそうです(他に冬樹社版『定本・室生犀星全詩集』全三巻〔1978年〕がある)。


 
室生犀星といえば、顔です。「変な顔」と自他共に認める個性的なつくりは、他に類を見ないと評判ですが、実は僕、7年ほど前に所用で訪れた奈良の吉野の山奥、上北山村でそっくりさんと出会ったことがありました(これは本当の話です!)。
 
 
犀星と愛猫のジイノ(→平凡社コロナブックス『作家の猫』を参照!)


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