2010年10月3日日曜日

グループ展「Souvenir」(池野江津子、クニトほか) 於、rooftop

2F廊下の壁に並ぶ漆芸作家・池野江津子さんの作品「Network」。        








最初に目に飛び込んできたこの作品に強く惹きつけられたので、後で池野さんご本人に話をお伺いしたところ、乾漆の技法で制作したとのこと。

五つの四角いオブジェには何本もの線が層を成すように引かれていますが、それらは分岐したり交錯したりしながらも、それぞれのオブジェの外側にも続いていることを確かに感じさせるように五つが配置されています。離れていながらも繋がっていて、それらは白い壁面からせり出し、波打つようなうねりをたたえた動きを感じさせるマチエールが特徴的。黒一色なのに層を成すような奥行きが感じられるのは、幾層もの布を漆で固める乾漆という技法によって得られたものなのでしょう。

ドゥルーズとガタリはその共著『千のプラトー』で、エクスタシーや絶頂にいたる寸前の精神の高い緊張状態のように、高揚が解消されることなく強度的に持続している状態を〈プラトー〉(→高原)という概念により表し、またヒエラルキッシュな階層構造のモデルとしての〈ツリー〉(→木)に対して、目には見えないところで植物の地下茎や木の根のように網の目状に拡がり自由に接続し合うモデルを〈リゾーム〉(→地下茎)という概念で表しました。
ドゥルーズ=ガタリの概念はあくまで思考のための道具としてモデル化されたものですが、池野さんのせり出したオブジェはまさにそれがプラトーを表象し、そこに層をなすように描写された線が目には見えぬリゾームを表象しているように思えます。背後の白い壁の奥にも、無数に、文字通りネットワークとしてリゾーム状に伏在しているなにものかがあることを、モノトーンのコントラストによって静かに示唆しているような。
池野さんはドゥルーズ=ガタリのことは知らないといっていましたが、それを聞いてさらに強く惹きつけられたのでした。
この乾漆オブジェ「Network」は、線描のシンプリシティをラディカルにきわめる笹倉洋平が拓いた地平とも確実に繋がっているようです。

ちなみに池野さんには以下のような作品もあります。

具現化シリーズ・盃「今夜も一人、飲んで呑まれる貴方に」(左)、お猪口「今夜も一人、飲んで呑まれる貴女に」(右)

ポートフォリオから。この遊び心がたまらなく素敵!


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NAPグループ展「ザ・盆地フロンティア」にも出品されているクニトさんの作品「ミステリーサークル」。


前方後円墳?


これらの作品は、作家ご本人によるとUFOの街?石川県羽咋市の神子原米(みこはらまい)というお米を樹脂で固めたもの。
ここは奈良ですし、どうみても前方後円墳にしかみえませんでしたが(剣菱型前方後円墳として著名な橿原市の見瀬丸山古墳を連想)、これはバイキンマンのUFOの角の部分なのだとか。それを聞いてまずは面食らいましたが、そういえば初日、NAP公募展でのアーティストトークでUFOをテーマにした作品を制作しているという話をしていたことを思い出しました。公募展に展示された秘密基地をテーマにした作品と併せてみることができたことでいろいろと感じ入るものがありました。クニトさんは自らの内面世界と僕らをとりまく世俗的な諸現象との間に作品を定位しているのだろか、とか。



4 件のコメント:

  1. ドゥルーズとガタリの『千のプラトー』は巨大な書物ですが、河出書房新社から文庫版の刊行が始まったので興味のある方はぜひ(三分冊)。

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  2. あの盃、独りで飲む時も寂しくないかもって思いました。

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  3. おお!コネコさん!
    ひとり酒のお供にほしいね。

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  4. 池野さんの作品、あらためて見ると、たしかにそれぞれが白い空間に浮かぶ島のようであり、そこを走る線たちは、分断されてはいるけれども必死に繋がりを求めているようでした。さらに漆塗りによって、潜在化された線と顕在化した線と、複数の層に渡る線が、波のようにうねる土台(世界?)の上を自由に動き回っているようにも見えました。『ミルプラトー』読んでみたくなりました。

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