2011年1月4日火曜日

石川淳『諸國畸人傳』(中公文庫)

毎年、正月にはいつもとは少しだけ雰囲気の違う本を読んでいます。今年読んだのは石川淳『諸國畸人傳』(1976,中公文庫/初版は1957年筑摩書房刊)。
江戸末~明治にかけて生きた10人の畸人たちのことを、いつ読んでもうっとりせんばかりの色気と明晰さ、そして人情をほだす機知にただただ感心するよりほかない名文で綴った短編伝記集です。
ただ、ここで取り上げられている松江の指物師小林如泥(じょてい)、都々逸坊扇歌(どどいつぼうせんか)、駿府の安鶴(あんつる)、坂口五峰(坂口安吾の実父)らのエピソードを読んでも、はて、こいつらのどこが畸人かいな?と首を傾げざるを得ないことがやたら多くて、少々不満がのこりました。みんな普通すぎるので・・・。当時としては畸人であってもです。
そんなわけで、その畸人ぶりに感服したのは俳人の井月(せいげつ)くらいでした。
虱だらけ、疥癬病み、酒を飲んではすぐに泥酔して寝小便する、どこででも寝ころぶ、というすさまじい個性ながら、「やーい、コジキ井月」と馬鹿にされても石を投げられても怒りを表わにすることなく、数十年もの間信州の伊那で食客を貫き通し、明治20年、最期は枯れ田の中にクソまみれで行き倒れた(享年66歳)という壮絶な人生には感じ入るものが大いにあります。

涅槃会に一日後るる別れ哉

闇(くら)き夜も花の明りや西の旅

(辞世の句として伝えられる二篇)


つげ義春「無能の人」第六話より(『無能の人・日の戯れ』所収,1998,新潮文庫)→クリックすると拡大します

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