2012年4月4日水曜日

『カバンの中の月夜  ~北園克衛の造形詩』(2002年,国書刊行会)

カバンの中の月夜




夜のガラスをひらき
いちまいの緑のハンカチィフのなかに
消えてしまう
お前
のタンブラァ

青いキャバレェでは
リキュウルの星
が睡い眼をして誘いにくる

ボンボンにも柘榴石にも
夜がすぎていき
きのうも
あすもない手に破れていく
ジャスマンの薫り

非常に青いガラス
の上に
ほとんどエロチックといえるほどの
純粋な圓錐
を想像する

美しいセニオラ
黄色いドット
のなかで
ガラスの椅子を砕いている
お前
の際限もない純粋




透明な三角
のガラス
と黄色いリボン
そしていちまいの白い紙

純粋
な時間のすべてだ

透明な曲線にかこまれて
砂の上に光っている
貝殻

白い距離

金髪
の薔薇の

の皿

またあるいは
太陽
のガラス
の紫
の肖像の

青い空間にみとられながら
レモンをよぎり
完全
な卵
の影
の固いトォンを
ほんのすこし憎んでいる
お前
の純粋
な縞のある憂愁




◆北園克衛「カバンの中の月夜」(詩集『眞晝のレモン』1954年、より)










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