2013年6月29日土曜日

栗棟美里 展 「Complex/Crushed/Condolence」 於TEZUKAYAMA GALLERY(大阪・南堀江)

モノクロ写真をプリントした布に、アウラを描画する栗棟さんの三つのシリーズによって構成された展覧会。
モデル本人はそれを「醜」と思う一方、作家はそれを美と思う、主客の間の美醜観念の齟齬をテーマとした「Complex」(写真は三幅対の右二つ)。モデルはダンサーである作家の実母であるという。
視座が変われば主客が容易に反転するように、美と醜もまた反転しうることを語るにとどまらず、二つの観念の間に立つ鑑賞者の意識は、紛れもなく〈美〉としかいいようのないものに導かれてゆく。
一般には廃物とされる割れた器の、その割れ目を継ぐように銀箔を載せた「Crushed」。
「Condolence」は枯れゆく花が放つアウラを、灰によって表象したシリーズ。有機物が燃焼した後に残る灰は、〈死〉のみならず、〈弔い〉〈再生〉、そして洗礼者ヨハネの祝祭において聖なる篝火からとれた灰が穀物を実らせるといわれることから〈豊饒さ〉をも象徴する。


どの作品も〈美〉という観念に包含される価値の多相性を問いかけるものとなっているのだが、けっして難解ではない。親しみやすさと近寄りがたさの間で、ある種の緊張感を催すところから何かが結び合わされていく。
生物/無生物という区分を超えて、モダニティが乱暴にも腑分けしてしまったものを、鑑賞者との交わりの中で再接合するメディウムのように。
この上なく凛として、佇んでいる。

内に向かうことと外に向かうこととが背反しない、象徴性ゆたかな作画法と作品の基層に流れる強い思想性が栗棟さんの魅力である。

意味性の消去/不在、といいながら薄っぺらさを糊塗したり、韜晦しただけのものが溢れかえる昨今の風潮からの揺り戻しとして、これから多くの人々を惹きつけてゆくことだろう。

TEZUKAYAMA GALLERY  6/7~7/6

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